次世代の思想を探索し社会に実装する探索サロン “Ecological Memes” の描く世界観

今回はこれからの時代の人間観を探っていく思想探索サロン “Ecological Memes” 発起人の小林泰紘さんにインタビューしました。”Ecological Memes” の描く次世代の世界観に迫ります。

−まずは、小林さんがプロデュースされているEcological Memesの活動内容から教えてください。

はい。Ecological Meme(エコロジカルミーム)は、エコロジーや生態系というものをテーマに、これからの時代の人間観を探っていく思想探索サロンです。具体的には、生態学や複雑系科学、あるいは東洋思想や身体性、循環型の暮らし、都市デザイン、リーダーシップの在り方など多岐にわたるテーマを扱った領域横断型のトークイベントシリーズをやっています。

−もともとそのような活動をやろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

個人の想いやビジョンを引き出し、社会の流れと結びつけながら、より良い未来に向けた変革を伴奏するという仕事をしているのですが、世の中の潮流をリサーチしたり、現場を訪ねていく中で、あることを感じていました。

それは、今の時代は、多くの人が、人間だけでなく、人を取り巻く環境を含めた関係性のあり方を捉え直そうとしている時代だということです。

それは、地球規模での持続可能性や、人とロボットの共生など社会全体のテーマだけでなく、自然との共生や循環型の暮らし、ウェルビーイングなど個人のライフスタイル・価値観でも。あるいは、自律分散や生命型組織のようなキーワードで、経営や組織のあり方についても自然のメカニズムをベースとした学び直しが起こっている。

個でみると全く分野や業界もバラバラの別々の事象なのですが、少し引いた目でみると、自然を支配の対象とし、経済成長に過度に固執してきた近現代社会に対する違和感を乗り越えようとする動きが、色々な所で起こりはじめている感じがする。

そうした中で、エコロジーや生態系づくりということをテーマに、様々な領域の知見と掛け合わせながら、思想だけでなく、社会への実装という視点で探索していったら面白そう、と気付きとりあえずはじめてしまったんです。笑

小林さんにとって、どうしてエコロジーなのでしょう?

自分がそもそも旅人で自然が好きだというのもあるのですが、

振り返ってみると、一つの大きなきっかけは南方熊楠の思想に出会ったことだったと思います。

粘菌などの生物学者であり民俗学者であり仏教学者でもある明治時代の思想家なのですが、彼の本の中に、人間が人間的な価値世界に閉じこもることで「精神のエコロジー」の危機が進行していく。エコロジーの本質は、人間の世界を外にひらき、地球的な自然循環過程とつないでいくための方法を探る学問なんだ。といったことが書かれていたんですね。

つまり、自然環境の危機と連動して、ヒトが自然環境から切り離されていくと、意識が生命や無意識から切り離され、知性が感性から切り離され、因果性が偶然性から切り離されて、本来持っていたはずの根っこが失われていってしまう。

それを読んだ時に、自分が生きる中で感じてきたことにすごく近いなという感覚と興奮がありました。一つは自然とつながっていることの大切さ。もう一つは、言語や因果関係だけで世界を捉えるのではなく、東洋的な思想が培ってきたような、偶然性を含めた直観や身体感覚として世界を感じることの必要性のみたいなものですね。

あとは、各回のテーマという意味でいうと、完全に興味本位のキュレーションです。ブログを読んで頂くとわかるんですが、エコロジカルミームで扱っているテーマって、個人的にこの2-3年で読み漁っている本とすごくシンクロしていまして。笑

エコロジカルミームで扱っている”エコロジー”というのはどういうものなんでしょうか?

日本でエコロジーというと、手付かずの自然が過度に美化されたり、ともすると全体主義的な視点を感じてしまってどこか共感しきれない自分もいたんですが、そうではなくて、ヒトと社会、自然環境は互いに影響し合っているという視点で世界を捉えることをエコロジーと捉えてみたらすごく腑に落ちた。だからそれは、自分が地球の上で何を感じ、どう心地よく暮らし生きていくのかっていうこととつながっているんです。

ビジネスの世界で言えば、例えば、経済、社会、環境のバランスをとっていこうという考え方がありますが、むしろ、それらを別々のものではなく、相互に影響しあっているものとして捉えるといった考え方です。

そして、地質学的に人新世ということも言われてるように、人は自然に包摂された存在であるのと同時に、人類が地球に大きな影響力を持ち始めているのも事実ですよね。ビジネスにおいても、自然環境含めた様々なステークホルダーといかに共生型・繁栄型の生態系をつくっていけるかが重要になってきていることも、エコロジー的なシフトの芽生えだという風に捉えています。

− これまで具体的にはどのようなテーマで実施してきたのでしょうか。

これまで4回実施しました(2019年8月6日現在)。

第1回は「生態系とポストヒューマンセンタードデザイン」というテーマで、ニュージーランド・マオリ族の自然共生モデルなどを研究をされている九州大学・稲村助教をお呼びして、人間社会だけに閉じずに他の生き物や自然を含めて人間活動の営みを捉え直すことについて考えていきました。第2回はバイオミミクリデザイナの亀井潤さんにお越しいただき、自然と技術を融合する生物模倣。第3回はビンガムトン大学の佐山教授をお招きして、複雑系ネットワークと群れ方。

そして一番最近、第4回で扱ったのが、身体知性×システム変容です。もともと、「物事を要素還元的・言語的に細かく分解して、世界を理解しようとする」ことの限界を乗り越えていくヒントが、直観的に全体性を捉えていく東洋的な知性や身体性にあるのではないかというのが、Ecological Memesの着想でもあったんです。だから、生きる感覚、つまり”感じる”を起点に世界と向き合っていくことを大切にしたくて。

そこで、イノラボ・インターナショナル共同代表の井上有紀さんをお呼びして、システム変革理論であるU理論と身体性を組み合わせたSPT(ソーシャル・プレゼンシング・シアター)という手法を学び・体験しながら、身体が受け取っている情報をベースにシステムと向き合うワークショップを行いました。

その視点は、次回の東洋思想の会ともつながりそうですね。

はい。次回は「東洋思想~因果から縁起へ~」がテーマで、高野山真言宗高福院で副住職をつとめる川島俊之さんをゲストにお招きします。

複雑性が高まり予測不可能な世界にどう適応しながら持続可能な社会へシフトしていくか、というのがビジネスでも大きなテーマでもある今の時代。言語というのは時間軸で順序立てていく線形性を本来的に持っているので、そうではなく直観的・右脳的にありのままを捉えたり、非連続的なことを考える力の重要性は高まっていますよね。

仏教思想の中では「縁起」という言葉があるのですが、肌感覚としても、量子力学のようなサイエンスとしても、因果関係だけで世界を紐解こうとすること自体に限界を迎えている中、偶然性も含めて世界を把握しようとする東洋的な思想を紐解いていけたらと思っています。

−ありがとうございます。最後に、Ecological Memesの活動を通じて世の中にもたらしたい変化について教えてください。

1つは、わからなさと向き合ってみるということです。

今の時代はスマホ画面の1分1秒を争って「わかりやすさ」がひたすら追求されていますが、一方では、「わからなさ」と向き合う機会や耐性がすごく減ってきているようにも思います。

でも、様々な分断や二項対立を乗り越えて、新たな地平線を見ようと思ったら、それってきっと最初は分かりづらいんだと思うんですよね。独りよがりの分かりづらさに安住してはいけないんですけど、そもそもわからないもの、ナンセンスなものと向き合わないと新たなわかるには出会えない。そのための実験場なのかなと。

もう一つは、これからの時代に必要になるであろう思想や社会実装の探索です。

持続可能性や循環型社会の潮流がヨーロッパを中心に大きなうねりとなっていますが、例えば、そうしたシフトが起ころうとした時に本当に必要になるのは、バズワードをググることでもビジネスの表面を言葉で着飾ることでもなく、僕ら自身の世界のまなざし、ものの観(み)方のアップデートのはずなんです。そのための思想や方法論、あるいは実社会への組み込み方を探索していくのがEcological Memesのミッションなのかなと思っています。

最後にもう一つあるとすれば、これはやりながら感じていることなのですが、日々感じている違和感や生きる感覚を大切にして生きれる人が増えることです。

これまでの参加者の中に、「周囲とは違うからシャットダウンするしかないと思っていた、だけど自分は本当は大切にしたい感覚を、(ここだと)素直に共有することができる」と言ってくださる方がいたんです。

人それぞれ、色々なことを感じながら生きていると思いますが、今の社会は、ともすればその感覚や違和感を鈍らせて生きた方が楽だし、生存戦略上有利であるようなシステムになってしまっている。例えば、満員電車なんかは典型例ですね。あとは育休の議論なんかもそうではないでしょうか。

その結果起こっていくのが、内田樹さんの言葉を借りると「鈍感な人間の再生産」。多様性が失われて画一的な社会になっていくのは面白くないし、本当は大切だと感じていることを押し殺して生きていくのは個人も辛いと思うんです。少なくとも僕の周りには、そうした生きづらさを抱えている人も多い。だから、そういった生命的な感覚や根っことちゃんと向き合える社会のあり方を探っていきたいと思っています。

小林泰紘
株式会社BIOTOPE Creative Catalyst/Intrapreneurship Enabler
世界26ヶ国を旅した後、HUB Tokyoにて社会的事業を仕掛ける起業家支援に従事。その後、人間中心デザイン・ユーザ中心デザインを専門に、金融、人材、製造など幅広い業界での事業開発やデジタルマーケティング支援、顧客体験(UX)デザインを手掛けた。現在は共創型戦略デザインファームBIOTOPEにて、企業のミッション・ビジョンづくりやその実装、創造型組織へ変革などを支援。自律性・創造性を引き出した変革支援・事業創造・組織づくりを得意とし、個人の思いや生きる感覚を起点に、次の未来を生み出すための変革を仕掛けていくカタリスト/共創ファシリテーターとして活動。座右の銘は行雲流水。趣味が高じて通訳案内士や漢方・薬膳の資格を持つ。イントラプレナー会議主宰。エコロジーを起点に新たな時代の人間観を探る領域横断型サロン Ecological Memes発起人。
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